雪の峠・剣の舞

秋田・群馬/一風変わった歴史物二点

雪の峠・剣の舞 岩明均
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

岩明均先生の戦国〜江戸期の中編二点。いずれもある程度史実に即し、誰もが知っている物の誕生秘話を描いて、読み応えのある物語になっている。 【雪の峠】 関ヶ原で西軍につき、今の秋田に領地替えとなった佐竹藩。藩主の判断を巡り、古参と若い近習の間でわだかまる中、新しい城の候補地を巡り対立が起こる。 切れ物の若い近習と、上杉謙信をよく知る古参は、頭脳で戦いながらも賢い者同士、理解し合っている。その複雑さ、合理性と矜恃とのせめぎ合い、世代交代の切なさ……様々な感慨の中で生まれる都市に、驚かされる。ああ、成る程! 【剣の舞】 上州(今の群馬県)で新陰流の当主・上泉信綱(かみいずみ・のぶつな)が「撓(しない、今の竹刀の元祖)」を考案する所から始まる物語。信綱の高弟は、ズブの素人の女性に撓で稽古をつけることに。 家族を殺し、自分を凌辱した武士に復讐するため、剣を教わる女性。その中で少し心を通わす二人だったが、戦は近く、仇討ちも目の前に。真剣勝負とは?剣は何のために?命を遣り取りする虚しさへの、柔らかな回答としての撓。静かな虚無感が、心に焼き付く。

寄生獣

誰もが認める名作「寄生獣」

寄生獣 岩明均
名無し

人に寄生し、その体を乗っ取り、人間を捕食していく謎の生物…これだけ言うとホラーの趣がありますが、これはヒューマンドラマです。 テーマも環境問題がどうのと言う、今の時代ではありふれた陳腐な物に感じられるかも知れませんが、逆にそれが寄生獣(パラサイト)の「自然の摂理」的な物を感じさせます。 パラサイトには悪意があるわけではなく、単に「この種を食い殺せ」と言う本能に従っているだけなので、弱肉強食の摂理に従えば、彼らは普通に生きているだけと言うことになります。 つまり彼らも自然の一部なのです。 それが環境を破壊している人間へのカウンターとしての生物なのかが分からないため、パラサイト当人達も「我々は何故こうして生きているのか」と考察する者もおり、中々深いです。 結局、パラサイトの中で一番の能力を持ち、リーダー格である「後藤」は、環境破壊の権化である、ゴミ捨て場の毒を主人公に打ち込まれてトドメを刺されますが、これも皮肉が効いています。 主人公に寄生し損ね、共同生活を送ることになる「ミギー」にも妙な愛嬌があり、明言はしませんが、最後彼らがどうなるかは涙無しには見れないかもしれません。 名言や名シーンの多い漫画でもあるので、それだけでも読んで損はしないでしょう。 作者の岩明氏の絵も、人間と人間で無い何者かの違いがきちんとわかる辺り凄いです。 特別綺麗とか特別美しいとかそういうのではありませんが、生きた眼とそうでない眼の描写が抜群に上手い。 視線だけで「コイツはヤバイ」とか「コイツ人間じゃねぇ」と言うのを分からせるのは類い希なるセンスだと思います。